ゴスフォード・パーク

 ロバート・アルトマン得意の群像劇。30年代英国を舞台に、貴族社会の虚実入り混じる愛憎を労働者階級(使用人等)からの視点を絡めて描く。多くの登場人物のキャラクターをしっかりと使い分け、立体感を失わないところはさすが。
 一人の放縦な老貴族殺人事件を取り上げながら、そこに浮かび上がってくるのは、仮面の貴族社会の醜い実態と、その犠牲者としての労働者階級の悲哀である。いわゆる「謎解きもの」ではない。
 捨てた父親への憎しみが、実の母親を殺人へと揺り動かすが、その事実を知ることはない。そして、そのことを知ることはない。母親はただ涙に暮れる。身分という巨大な制度への抵抗は、決して幸福をもたらさず、人知れない悲劇を繰り返す。
 そのようにも感じながら、同時にこの世界を所与のものとして生き抜くイギリス人のしたたかさに感心した。これは物語であり、乾いた喜劇、風刺である。ウェットなメロドラマにはない真摯な人間観察記である。現代においても、余計なものをはずしてみれば、案外この世界と変わらないのではないか。それをわかりやすい形で見せ付けてやろうではないか、というような、アルトマン監督の底意地の悪さというか、一流のアイロニーを感じてしまう。
ゴスフォード・パーク [DVD]