公会計革命

 主張・論旨は明快である。まず、現在いくつかの自治体によって導入されている企業会計方式で作られたバランスシートは不十分であると主張する。損益外の資産の変動(社会保障給付や資本的支出等)を表す勘定(処分・蓄積勘定)が表せないからである。そこで、それを補った「国ナビ」という会計ソフトを筆者が中心になって作る。これにより、公会計の正しいバランスシートが作成される。さらに、それは政府の財政戦略を根本から変える力があるという。
公会計革命 (講談社現代新書)
 具体的には、将来世代への負担も含めた、従来なかった立体的な予算編成が可能になる。大蔵省の積み上げ査定方式から、内閣(総理大臣)によるメリハリのある戦略的予算を組めるようになる。国会は、内閣より提示された予算の基本方針のチェック機能を果たす。つまりは、憲法で示された役割を実質的に果たすことができるようになるというわけである。
 マネジメント・レベル(省庁)で作られる予算の歪み(一律シーリング、増分査定主義等)から、ガバナンス・レベル(政府)での責任を伴った政策判断への移行。現在の経済財政諮問会議方式を、もう一歩進めたものと理解すればよいか。筆者は元大蔵官僚ということで、多少法律や財政に対する専門的な話もあるが、論旨が明解なので読みやすい。税金は国への出資であるとする説にも共感できる。
 少し前からマニフェストが一般的となり、各党各人、特色を持った政策論争有権者の判断材料になったが、それを担保する財源配分については無責任な話が多かった。しかし、今後、本書が提示するような財政運営が行われれば、現役世代と将来世代の負担を曖昧にした政策は無意味なものとなり、今後の国の姿を見据えた政策論争が展開されていくことになる。それは非常に望ましいことである。
 二つだけ不満な点。ひとつは、あまりに総理大臣に権限を持たせすぎようとしているように感じた。ハーバード留学で大統領制に興味を持ったからかもしれないが、もっと内閣の組織を重視すべきではないか。複雑に輻輳する社会制度を運営していくには、信頼できる国務大臣と政策能力の高い政務官等のスタッフの連携が重要である。この時代に求められる総理大臣とは、そうした優秀なスタッフを抱え、彼らの意見を集約し、国家運営のグランドデザインを描ける人物である。
 もうひとつは、今後の財政戦略上最も重視すべき地方への税源移譲問題にあまり触れられていないことである。今後、税源移譲が進めば、自己責任のもと各地方が特色ある政策を実行していくだろう。財政による統制も、税源移譲が進めば限定的な効果にならざるをえない。国家の財政政策と地方のそれとは、また別のパラダイムで整理する必要があるだろう。