トリコロール 赤の愛

 原題はTrzy kolory : Czerwony。
 イレーヌ・ジャコブが限りなく美しい映画である。冒頭の写真撮影シーン、巨大ポスタア(ラストのテレビ画像でも同じアングルが使用されている)、ファッションショウ、老いた元判事ジョゼフ宅での光の陰影を強調したショット。そして、有名な遭難救助のラストシーン。目映いばかりの映像美を駆使して彼女の魅力を引き出している。特に横顔と濡れ髪の撮影に強いこだわりを感じた。監督にとって一番お気に入りのアングルなのだろうか。
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 「青の愛」でも見られた、液体を示唆的に使った感情表現が何度もでてくる。ボーリング場での割れたコップのビール(裏切られたオーギュスト)、風が吹きすさぶ劇場で飲むコーヒー、強風によってこぼれるウイスキー(ブランデー?)。それぞれが登場人物の揺らめく感情を表現している。
 台詞は独白が多いので、フランス映画によく見られる言葉の衝突が少なく無駄がない。喫茶店のスロットマシン等、遊び心あるシーンも多い。
 ショウを終えて閑散とした劇場での、バランティーヌと老いた元判事ジョゼフの会話が感動的だ。孤独に傷んだ男の半生の告白と無心に耳を澄ます女。一度は捨てた人生を取り戻す男と新たな人生に踏み出す女。博愛と再生。この美しい映画の最も心温まるシーンである。
 もう一人の登場人物である失恋に傷ついた法律家オーギュストは、ジョゼフの分身である。バランティーヌとのラストの遭難救助の場面での邂逅。偶然の出会いに始まり偶然の出会いで終わる。これは輪廻の物語なのかもしれない。
平成16年12月26日(日) 初稿
平成17年4月23日 第二稿
平成17年5月19日 第三稿