終わりなし

 クシシュトフ・キエシロフスキー監督作品。渋谷ユーロスペースで鑑賞。1,000円。
 全編を通して寂寥感漂う悲しいお話。音楽と合わせて映像も重厚。
 特筆すべきは、「連帯」や労働ストライキに対する弾圧や戦没者慰霊祭といった、現代ポーランド史を描きながら、物語の主眼はあくまで主人公である未亡人の妻ウラへの視点のみで貫かれている。当時の共産主義政権下にあって、ここまで個人主義を貫いていることに驚嘆する。セックスシーンや自慰行為を描いたことも異例なのではないか。
 今作でも液体表現が印象的に使用されている。葛藤や呵責といった揺れ動く感情のさまを、無造作にシンクに流されるコーヒー等で表現されている。不定形である液体は、監督にとって最高の小道具なのだろう。
 夫の親友(おそらくウラを巡って過去に争った)が発した夫を愛していたのかという問いにうなづくウラの表情に、「赤の愛」のバランティーヌ(イレーヌ・ジャコブ)のそれがオーバーラップした。曇りのない晴れやかな表情に救われる。
キェシロフスキ・コレクションI プレミアムBOX [DVD]