面白すぎる日記たち 逆説的日本語読本 鴨下信一

 タイトルどおり、面白すぎる日記がたくさん紹介されている。人の生活・嗜好を垣間見る楽しさというのは格別だ。日記は裏日本文学史の側面を持っている。石川啄木徳富蘆花の人物像がいかに教科書で教えられていることと違うことか。岡本綺堂の律儀、正岡子規の剛毅。そして、永井荷風の日本語の美しさ。日記は面白い。この本にはそんな日記をもっと楽しむコツがたくさん紹介されている。
 ところで、作者は、日記とは「自分が見たり聞いたりした事実つまり取得した情報と自分が行動した事実、そしてそれに関する自分の感想を述べること」と定義している。この定義は流行のブログにもそっくり当てはまる(平成11年発行の本だからブログへの言及はないが)。
 しかし、日記とブログには大きく違う点がある。それは何か。「天候の記述の有無」である。小学校の頃の夏休み日記を思い出してみても、必ず○月○日晴れといった記述から始めていたが、ブログでそうした記述をしているのをほとんど見かけたことがない。
 たかが天気というなかれ。藤原定家の時代から受け継がれてきたこの「堅固なフレーム」をブログは踏襲していないのである。なんとも不思議なことである。
逆説的日本語読本 面白すぎる日記たち (文春新書)