トニー滝谷

 渋谷ユーロスペース市川準監督「トニー滝谷」(15:45上映)を見る。村上春樹原作。
 前評判通り、イッセー尾形宮沢りえの存在感で成り立つ作品。イッセー演じる主人公の孤独と、宮沢の儚い刹那的な美しさがうまく溶け合い、時間の流れも緩やかに、丁寧過ぎるほどに感情の機微を描いている。タルコフスキーの「ノスタルジア」のような、静謐な雰囲気。坂本龍一の音楽がさらに引き立てる。
 小津的なローアングル、絵巻物のような横スクロールによる暗転、ヒッチコックを髣髴とさせる足元の接写等、映像的にも面白かった。イッセーの何気ない所作による表現、宮沢の一人二役の演じ分けに感動する。
 気になったのは、モノローグによる場面、感情説明が多すぎること(一部の台詞を登場人物自身に語らせるのは面白かったが)。原作に対する敬意と愛情ゆえなのだろうが、映像表現として過剰な気がする。また、今注目(らしい)の西島秀俊のナレーションは全然よくない。 ラストの唐突な終わり方もいつもの市川節で、はっきりいって好きじゃないが、この中篇(75分)に関しては、いい幕引きの効果があったように思う。もう一度見たい。
レキシントンの幽霊