椿三十郎

 黒沢明監督作品。豪放磊落だが機知に富む浪人(三船敏郎)が、若侍達を助けることでお家騒動に巻き込まれていく姿を描いた痛快時代劇。
 主題的に血生臭い話になりそうだが、名前を尋ねられて、とっさに庭に咲く椿を見て椿三十郎と名乗ったり、右往左往する若侍達などどこ吹く風ののほほんとした城代家老の母娘の振る舞い等、ユーモアに溢れている。ローアングルを中心としたキャメラワークが迫力。
 椿の傍若無人な態度に反発を覚えながらも、自分達の性急で稚拙な行為が、結果として失敗するところを何度も椿に助けられ、次第に敬慕の念を深めていく。そこには、はっきりした形ではないにせよ、師匠と弟子の関係が成立している。
 自分には直接関係のない揉め事に首をつっこみ、危険に身をさらしながら若侍達を助ける椿の爽快さ。その真意にひとり城代家老夫人のみ気づいており、いろいろと世話を焼く。その下の世代に対する厳しさと優しさの視点が、物語の大きなバックボーンとなっている。
椿三十郎 [DVD]