赤ひげ

 黒沢明監督作品。3時間を越える大作で2部構成。
 前半は、小石側診療所で働くことになった長崎帰りの医学生保本(加山雄三)だが、所長の赤ひげ(三船敏郎)に反発し、子供じみた反抗を繰り返すが、ひょんなことから命を失いそうになるところを、間一髪赤ひげに救われる。それをきっかけに、次第に心を解きほぐしていく過程を、様々な患者のエピソードを絡ませながら描いている。
 後半は、保本が岡場所で働くおとよ(二木てるみ)の看病を通じて、一人前の医者として成長していく姿を、前半同様患者のエピソードを交えて見つめていく。
 黒沢明得意の師匠と弟子の物語だが、この作品が一番その関係がはっきりしている。寡黙な三船の存在感が圧倒的。加山の若々しさもいい。大人の解決も時にはするが、あくまで実直で患者第一。貧乏が即、死につながる時代の貧民のための診療所は、現在の公立病院と比較にならないぐらい庶民にとって大事な場所だった。そこを預かる医師の誇りと矜持を三船は見事に演じきった。円熟の境地とはこのことをいうのではないかと思う。だからこそ、黒沢監督はこの作品で三船と袂をわけたのかもしれないが。
 もちろん、黒沢美学が全編を貫いている。遠くで鳴り響く拍子木の音、保本と狂女が対面する場面の見事さ、叩きつけるような雨、貧乏臭い唐草模様、井戸に映える女中達の顔。スタンリー・キューブリックに匹敵する完璧主義者の面目躍如である。
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