エレニの旅
原題は「嘆く草原」。テオ・アンゲロプロス監督6年ぶりの新作。日比谷シャンテ・シネ。1,500円。
ロシア革命の余波でオデッサから逃げ出したギリシア人の一行に孤児エレニがいた。そこで流した一粒の涙は、やがて大きな濁流となって彼女自身を飲み込んでいく。
見捨てた初老の元婚約相手の葬送、大樹に吊るされた羊の骸、水没する村から逃げまどう群集。デジタルだアナログの次元の問題など意に介することなく、完璧な構図と極限までにリリシズムを追求した圧倒的な映像で20世紀の神話をイメージ化する。
170分、約3時間に及ぶいつもながらの超大作だが、見合うだけの内容と説得力がある。20世紀前半という動乱の時代という巨大なテーマに真正面から挑んだその力量と感性に感服。まさに巨匠である。おそらく個人的に2005年度ベスト作品になると思う。
当初、20世紀全体を3部構成になった1本の長編で描く構想だったが、内容が膨らんだため、3本のそれぞれ独立した映画として製作されることになったらしく、本作はその1作目である。2作目、3作目が今から楽しみ。
調べてみると、主人公エレニを演じたアレクサンドラ・アイディニは舞台女優で、今作が映画初出演らしい。すごく魅力的な女優さんで大ファンになった。